精進料理というと、肉や魚は食材として使えないと思っている人が多いでしょう。ですが、実は禁止されている食材はそれだけではないのです。その他にも精進料理では禁忌とされている食材があります。精進料理の基本的な考え方から、使えない食材をご紹介していきましょう。
もくじ
精進料理の基本
精進料理には使えない食材というものがあります。それは、精進料理の基本的な考え方や意味に関係しているからです。
精進料理に使えない食材を知る前に、まずは精進料理についてある程度知っておく必要があります。
精進料理の基本的なことをご紹介しましょう。
質素であれ
精進料理は料理を見た時、決して豪華絢爛(ごうかけんらん)とは言えませんよね。どちらかと言えば質素なお料理と言えるでしょう。
これは、仏教の教えで粗食が良いとされているからです。普段から粗食をすることで、悟りの道を切り開くことができるとされていました。
ぜいたくな食事をしてしまうと、仏の道や悟りを開くということから離れていってしまうのですね。そのため、質素な食事を取るようになりました。それが精進料理の基本となっています。
無益な殺生をしてはいけない
仏教の戒律に、「無益な殺生をしてはならない」というものがあります。
命は仏様から頂いた大切なものです。その命をむやみに奪い去ることは、仏様に背くことになると考えられているのです。仏様に背くことは、当然仏の道から外れることに匹敵します。仏教の教えと真逆の道を歩むことになるので、殺生は固く禁じられているのです。
無益な殺生とは、生きるために必要な食べ物にも当てはまります。自分が生きていくために、他の生き物の命を奪うことも仏の道に反することだとされているのです。
精進料理では肉や魚は一切使用しません。それは、自分が生きていくための殺生も禁止されているからです。精進料理が野菜やキノコなどしか使用しないのはこの為なのです。
煩悩を取り除くための食事
精進料理には、もう一つ大切な役割があります。それは煩悩を取り除くという役目です。
人間は一年で108の煩悩を抱きます。大晦日に108の除夜の鐘をつくのは、鐘をついて108の煩悩を祓うためです。煩悩は仏の道に反する考え方とされ、煩悩を持ち続けているといつまで経っても仏に近づくことができないとされています。
また、煩悩は悟りを開くための妨げにもなります。悟りが開けない人は悪い方向へ歩んでしまうという考え方もあったため、煩悩はできる限り取り除かなければならないものとされていたのです。
精進料理はそんな人間が無意識に持ってしまう煩悩を浄化するという役割も担っています。そのため、煩悩を刺激するような食べ物も精進料理では使わないとされています。戒律が厳しいお寺では、煩悩を刺激する食べ物も徹底的に取り除かれるのです。
精進料理で使えない食材
精進料理では、使えない食材というものがあります。
大変有名なものもありますが、意外と知られていない食材もあります。
ここでは、そんな意外と知られていない使えない食材もあわせてご紹介します。
肉や魚
精進料理で使えない食材と言えば、まず真っ先に思い浮かべるのが肉や魚ですね。
肉や魚は私たち人間と同じように、痛覚が存在すると考えられています。仏の道は救済でもあります。痛みや苦しみを取り除いて極楽浄土へ導くということです。
肉や魚に痛みという苦しみを与えることは、救済を意味する仏の道に反しますよね。そのため、精進料理では肉や魚は使えない食材とされているのです。
それなら植物は良いのかと思う人がいるかもしれませんね。植物は痛みを感じないと考えられています。また、野菜や果物や茸は、仏様からの恵みだという考え方もあります。仏様からの恵みは口にしても良いので、精進料理でも使われるのです。
香辛料
香辛料も精進料理では使えない食材とされています。香辛料がなぜ精進料理では使えない食材となっているのかというと、煩悩を刺激すると考えられているからです。
悟りを開くには煩悩から完全に抜け出す必要があります。すべての人間には煩悩があるのですが、これらをすべて取り除くことができると悟りを開くことができ、最終的には仏の道を歩むことができるようになります。
そんな煩悩を刺激してしまうと取り除くことが難しくなってしまいます。香辛料は煩悩を刺激する原因とされているため、精進料理では使えない食材とされているのです。
精進料理で使えない食材とされている香辛料とは、唐辛子はもちろんショウガも含まれています。辛み成分が強いものや味が濃いものは使えないということなのです。
五葷(ごくん)
精進料理で使えない食材として肉や魚の次に挙げられるのが「五葷(ごくん)」です。これも煩悩を刺激するとされていて、精進料理では使用が禁止されています。
にんにく
ニラ
ラッキョウ
ネギ
ヒル・・・小蒜。キョウジャニンニクとも言う
これら5つの食材を五葷と言います。ただ、場合によっては「ヒル」ではなく、玉ねぎを入れて五葷とする場合もあります。
精進料理で使えない食材でも例外がある
精進料理では使えない食材がありますが、実は例外が設けられています。その例外が含まれていた場合は、食べても良いということです。
本当は精進料理では使えない食材だけれど、例外が認められている条件についてご紹介します。
殺生されるところを見ていない
肉や魚において、殺生されるところを見ていない場合は、食べても良いとされています。
殺生されるところを見てしまった場合は、確実にその肉や魚が殺生されたということがわかっています。わかっていて食べるのは悪いことだと考えられているので、この場合はその肉や魚は食べることができません。
ですが、殺生されるところを見ていなければ本当に殺生されたかどうかはわかりません。もしかすると自然死だったかもしれないのです。その場合は殺生されたことにはなりませんから、食べても大丈夫ということになります。
殺生されたと聞いていない
殺生されたと聞いていない肉や魚も、食べても大丈夫です。
自分が精進料理として食べている食材の肉や魚が、誰かに殺生されたと聞いてしまうと、殺生されたことをわかっているので、食べてはいけない食材になってしまいます。
ですが、殺生されたと聞いていなければ、その肉や魚は精進料理で使用しても良い食材になるのです。殺生されたと知っているか知っていないか、ということが大きなポイントとなります。
例えば、精進料理用に提供された食材の中に肉が入っていたとしましょう。その肉が殺生されたものだと聞かなければ、それは精進料理で使って良い食材になるということです。
自分のために殺生されたと聞いていない
自分のために殺生されたと聞いていない場合も、精進料理で使って良い食材になります。
このあたりは大変微妙になります。また、どういう状況なら「自分のために殺生された」ということにはならないのかわからない、という人もいるでしょう。
例えば、誰かが病気の家族のために魚を釣ってきたとします。ですが、食べさせてあげようと思っていた家族がその魚をいらないと言ったので余ってしまいました。そこで、その人はお寺にその魚を持っていきました。
この場合、その魚はご住職のために釣ったものではありません。家族のために釣ったものなので、ご住職にとっては「自分のために殺生された魚ではない」ということになり、精進料理に使っても良い食材になるのです。
まとめ
精進料理にはさまざまな決まりがあります。それは「殺生をしてはならない」という根本的な考え方があるからです。
ですが、実際には大変曖昧な線引きがされています。野菜だけでは力が出ませんし、必要に応じて肉や魚も食べる必要があるからです。そのため、曖昧な線引きがされているのでしょう。
精進料理の大前提は「ありがたい気持ちで楽しく、おいしく食べること」です。仏教戒律に固執するのではなく、感謝の気持ちを持っておいしく残さず食べることが大切なのです。