香湯(こうとう)というものをご存知でしょうか?香りの高い香をお湯に溶かしたもので、心身を浄化する沐浴を目的としています。香湯は仏教の修行の一環で行なわれることが多く、香湯を行なう作法もあります。あまりメジャーではないので、知らない人も多いでしょう。そんな香湯の意味や作法、香湯で使われる香の種類のついて紹介します。
もくじ
香湯(こうとう)とは?
「香湯(こうとう)」という言葉を聞いて、ピンとくる人は意外と少ないのではないでしょうか?あまりメジャーではないので、知らない人が多いのです。
香湯にはある目的があり、香湯にまつわる伝説もあります。
まずは香湯についての紹介と、香湯にまつわる伝説について解説していきます。
香を入れたお湯のこと
香湯(こうとう)とは、その文字が表す通り「香りが良い湯」のことです。
香湯に用いられる湯は、香木を煮出して作ります。特に香りの高い香木を使うことで、より強い香りを放つお湯ができます。
本来の目的は身を清めること
香湯の本来の目的は、身を清めることです。香木を煮出した香りの高い香湯で身を清めることで、仏の道に入るための準備をします。
香木は大変神聖なものと考えられていました。邪悪なものは香木が放つ強い香りを嫌うとされていたからです。
人間はさまざまな欲望を抱えた穢れた存在とされています。その穢れを香木を煮出して作った香湯で清めて浄化し、無垢な心身を作り出そうという考えがあったようです。
また、仏の道に入る時には、外側から邪悪なものが誘惑をしてくるとも考えられていました。そのような邪悪なものから身を守るためにも香湯で身を清めていたのです。バリアのようなものを張ると考えると良いかもしれませんね。
香湯の伝説
仏法で香湯を用いるようになった経緯には、伝説も関係しています。
お釈迦様がこの世に誕生した時、竜王が天から舞い降りてきて香湯を灌(そそ)いだという伝説があります。香湯を灌(そそ)ぐことで、竜王はお釈迦様が誕生されたことをお祝いしたのです。
この伝説から、仏法と香湯はゆかりが深いものになったとも言われています。
香湯に用いられる香の種類
香湯で用いられる香にはさまざまな種類があります。
中には、現在ではさまざまな理由から、取り扱いが制限されている香もあります。香湯で用いられる香は、それだけ希少価値が高いものが多かったということでしょう。
香湯で用いられる香の種類についてご紹介します。
丁子(ちょうじ)
丁子(ちょうじ)は、香湯で最もよく使われる香です。
フトモモ科の常緑樹で、大変香りの高い香木です。丁子の花のつぼみは乾燥させて薬や香辛料として、現在も用いられています。また、油を取ることもあるようです。
原産はインドネシア北東部のモルッカ諸島です。現在は、東南アジアやアフリカなどで栽培されています。
苜蓿香(うまごやしこう)
苜蓿香(うまごやしこう)は、苜蓿(うまごやし)というマメ科の植物で作った香です。
日本では馬や牛のための牧草として用いられていました。そのため、「馬肥(うまこやし)」や「牛肥(うしこやし)」という別名で呼ばれることもあります。
地中海地方原産の植物で、日本には江戸時代の頃に入ってきたと言われています。当時も、馬や牛のための餌として輸入されていたようです。
沈香(じんこう)
沈香(じんこう)は、ジンチョウゲ科の植物で作られた香です。香湯では丁子と同じく、大変良く使われる香です。
沈香は原産国によって香りが異なります。同じ沈香の中でも特に香りが高いものは「伽羅(きゃら)」と呼ばれ、一時期その人気は絶大でした。
ただ、あまりに人気が高すぎたため乱獲され、沈香の原料となる植物が絶滅の危機に瀕してしまいました。
現在では、沈香を作るために用いられるすべての植物はワシントン条約の希少品目第二種に指定され、取引そのものが制限されています。
牛黄(ごおう)
牛黄(ごおう)は、牛の胆のうの中でできる胆石です。
もともとは漢方薬として用いられていました。解熱や鎮静の効果があったようです。
牛黄は牛が病気になった時に堪能の中でできるものなので、大変希少価値が高く、めったに手に入れることはできませんでした。そのため、大変高価な薬として取り扱われていた歴史があります。
見た目が黄色いことから、「牛黄」という名前が付けられています。牛黄は苦さと甘さが一緒になったような香りがするようです。
雄黄(ゆうおう)
雄黄(ゆうおう)は、別名「石黄(せきおう)」とも呼ばれている、ヒ素の硫化鉱物です。
「ヒ素」というくらいですから、当然強い毒性があります。そのため、現在は取り扱いが禁止されています。
ただ、中世の頃までは黄色の顔料として使われていたようです。強い毒性があるということがわからなかったのですね。
「黄」という文字があるくらいですから、色は黄色です。純度が高いものになると、宝石のように美しい輝きを放つレモン色をしています。
菖蒲(しょうぶ)
菖蒲(しょうぶ)は、サトイモ科の多年草です。アヤメ科と間違えられることもありますが、まったくの別物で、香湯ではサトイモ科の方を使用します。
現在では5月5日の端午の節句に、菖蒲湯に入るという風習があります。菖蒲の葉や根っこを湯船に入れてお湯を沸かして入る行為です。
菖蒲には、病魔を払う効果があるとされていました。端午の節句は季節の変わり目にあたり、体調を崩しやすかったので、菖蒲湯に浸かって病魔を追い払おうとしていたのです。
香湯でもこの菖蒲湯と同じ考えがあります。病魔も邪気の一つです。邪(よこしま)なものを追い払うという目的で、菖蒲が用いられていたのでしょう。
現在の香湯と言えば「丁子湯」
香湯で用いられる香について、たくさん紹介しました。ですが、中には現在では使用できない香もありました。
現在では、「香湯」というと「丁子湯(ちょうじゆ)」のことを指しています。
丁子は現在も手に入れることができる香木です。東南アジアやアフリカで栽培されるようになったことから、当時よりも比較的手に入れやすい香木でもあります。
丁子は大変香りが高い香木でもあるため、香湯と言えば丁子湯というのが一般的になったようです。
香湯偈(こうとうげ)とは
仏法において香湯を行なう際、香湯偈(こうとうげ)というものを行ないます。
仏教を学ぶ為の道場に入る際に唱える呪文です。香湯偈を唱えることで心身が清められ、同情に入ることが許されるのです。
香湯で身を清める際には、香湯を介助する係の者が香湯偈を唱えます。香湯で身を清めている人が、より深い部分まで清められるようにお手伝いをするという目的で、介助する係が唱えることになっているようです。
香湯に似た香道
香湯は身を清めることが目的です。
そんな香湯に似た文化に「香道(こうどう)」というものがあります。これは香の香りを楽しむ芸道です。
香の香りを楽しむ芸道と言っても、単なる娯楽ではありません。香道には、香りの中にある「静」を学ぶという目的があります。静かに香の香りを楽しむことで、自分の内面と向き合い、鍛えるという教えが込められているのです。
香道については、詳しくご紹介している記事があります。もっと詳しく知りたい方は、ぜひそちらの記事もあわせてご覧ください。
まとめ
香湯というものを初めて聞いた人もいるかもしれません。香りには強い浄化の作用があります。心の中にある邪悪なものを、香りで浄化するのです。
海外では、玄関先や窓辺に香りの強いラベンダーのドライフラワーやポプリを下げる文化があります。これは、邪悪な存在がラベンダーの強い香りを嫌うからです。ラベンダーの香りで結界を張り、家の中に邪悪な存在が入ってこないようにしているのですね。
国は違えど、香りを持って邪悪なものを浄化し、更には寄せ付けないようにするという目的は大変似ています。香りに関する考え方は、どこも似たようなものがあるのかもしれません。