つるし雛というものをご存知でしょうか?通常のお雛様は雛人形をケースや台の上に乗せて飾るのものですよね。つるし雛は文字通り、吊るして飾るお雛様なので大変コンパクトです。そんなつるし雛の始まりや由来について紹介してまいります。
もくじ
つるし雛とは?
つるし雛、というお雛様があるのをご存知でしょうか。存在そのものを知らないという人や、名前は聞いたことがあるけれど詳しくは知らないという人もいるでしょう。
まずはつるし雛について見ていきましょう。
小さな人形を作って吊り下げて飾る雛人形
つるし雛とは、文字通り吊るして飾る雛人形のことです。
小さな人形を紙でたくさん作ります。そしてそれらに糸を通して吊り下げて飾るのがつるし雛です。
通常のケースや台に飾る雛人形と違い、簡単に手作りできるコンパクトな雛人形です。大きな手芸用品店やインターネットなどでは、つるし雛のキットが売られています。自宅で簡単に作ることができますから、チャレンジしてみる人も多いようです。
また、サイズも大変小さくて場所を取らないので、さりげなく飾っておくことができるというのも嬉しいポイントです。部屋に物を置きたくないという人にも人気が高いのですよ。
さらに、出すのも片付けるのもとっても簡単。さっと箱から出して吊り下げ、片付ける時も防虫剤と共に箱に納めるだけです。手間もかからないので、忙しい人にもぴったりです。
始まりは江戸時代
つるし雛の始まりは、江戸時代までさかのぼります。
現在でも、雛人形は高価ですよね。ですが、江戸時代の雛人形は今とは比べ物にならないくらいもっと高価なものでした。それは、お金持ちの見栄があったからです。当時の雛人形は娘の嫁入り道具としての役目もありました。高価な雛人形を嫁入り道具として持たせることで、嫁いだ先で大切にしてもらえると考えられていたのです。この考えから、雛人形はうなぎのぼりに値段が上がっていきました。
そのような高い雛人形は、とても庶民が買えるようなものではありません。ですが、自分の娘には幸せなってもらいたいというのは親なら誰もが思うこと。そんな親の気持ちや願いを込めて作られたのがつるし雛でした。
つるし雛は、当時から手作りの人形を吊るして飾るというのが主流になっていました。家族みんなで小さな人形をたくさん作り、それらに糸を通して飾ることで、子供の幸せや無病息災を願ったのです。
特に赤ちゃんにとっての大切なお守りだった
つるし雛は、特に赤ちゃんにとっての大切なお守りでした。
昔は「子供は7つまでは神様の子」と言われ、多くの子供たちが幼くして病で亡くなっていたのです。
せっかく生まれてきた我が子が神様に連れ去られないようにという願いが込められたのがつるし雛でした。何故なら、雛人形にはもともと「身代わり」という意味も込められていたからです。両親が娘に雛人形を持たせるのは、娘の代わりに不幸を受け取ってくれるようにという願いも込められていました。
つるし雛は家族がみんなで作る雛人形です。赤ちゃんが生まれると両親はもちろん、祖父母や親戚も集まって小さな人形を作り、糸を通して飾ったのだそうです。つるし雛を飾ることで、可愛い我が子が神様に連れて行かれたりすることのないように、という願いが込められているのです。
つるし雛に込められた大切な意味とは
雛人形の主な役割は「身代わり」です。それはつるし雛にも同じことが言えます。ですが、つるし雛には、雛人形にはない特別な意味も込められています。
そんなつるし雛に込められた大切な意味についてご紹介していきましょう。
伝統芸能の舞を表現した人形
つるし雛には、伝統芸能の「三番叟(さんばそう)」という舞を表現した人形が飾られます。
「三番叟(さんばそう)」とは、能楽の中でも特に神聖視されている狂言「翁」の一部です。主たる内容は天下泰平を祈り、五穀豊穣を寿(ことほ)ぎます。当時のあらゆるめでたさや幸せの願いが込められた舞なのです。
この「三番叟(さんばそう)」の舞を表現した人形をつるし雛に飾ることによって、あらゆる幸運が舞い降りてきますように、という願いが込められています。
五穀豊穣の願いが込められている
江戸時代でつるし雛が飾られるようになった背景には、本来の雛人形が高くて買えない貧しい人たちが創り出したという事実があります。その主な人たちは農民でした。
農民の人たちにとっての幸せとは、五穀豊穣です。米や野菜が豊作に実れば、それらを売り歩くなどしてお金が手に入ります。それは肉や魚などを購入するということにつながり、お腹いっぱい食べることができるようになるのです。
たくさんの豊作を祈り、子供たちがいつまでも健康で幸せに過ごせるようにという願いが、つるし雛には込められているのです。
衣食住を願ってさまざまな人形が作られる
つるし雛の人形には、衣食住を願ったものもたくさん吊るされます。
例えば糸巻(いとまき)は、裁縫が上手になるようにという願いが込められています。また、裁縫と言えば連想されるのが着物ですよね。このことから、糸巻には着るものに困ることがないように、という願いも同時に込められているのです。
さらに鬼灯(ほおずき)には、人生を明るく照らす提灯の意味があります。住むところや食べることに困らない、明るい未来がありますようにという願いが込められています。
各土地によって異なるつるし雛
つるし雛は、日本全国各地でまったく同じ、というわけではありません。地方によってはその姿かたちが異なっているつるし雛も多くあります。
そんな各地によって異なるつるし雛についてご紹介しましょう。
福岡県では袋物を下げる
福岡県では、袋物を下げるという風習があります。これを「さげもん」と言います。
つるし雛の一つひとつの飾りが袋物になっており、ここに縁起のいいものを入れて飾るのです。
多くのつるし雛は形を模した人形を飾ります。ですが、福岡県の「さげもん」は人形ではなく、吊るした小さな袋に本物を入れて飾るというのが通例となっています。
静岡県では木工細工を下げる
つるし雛の多くは、紙細工や布で作った人形を飾るのが一般的です。
ですが、静岡県では木工細工をつるし雛に吊り下げます。これは、静岡県が雛人形に使われる木工細工を多く作っていたからです。つるし雛に飾る際には、雛人形に飾るお道具を更に小さくした木工細工を作り、それを飾ります。
山形県では開いた傘に下げる
つるし雛は、木の枠組みにぶら下げたり、電灯の笠のような形をしたものにぶら下げたりして飾ります。
ですが、山形県では傘にぶら下げて飾るのが通例です。山形県ではこれを「傘福」と言います。
つるし雛を飾る時期や飾り方
つるし雛を飾りたいけれど、時期や飾り方がわからないという方もいるでしょう。
そこで、つるし雛を飾る時期や飾り方についてご紹介します。
お雛様と一緒に飾るのが一般的
現在のつるし雛は、お雛様と一緒に飾るのが一般的です。
もし自宅につるし雛を飾るのなら、お雛様を出した時に一緒に飾りましょう。お雛様の両脇に飾るのが一般的な飾り方ですが、それが正しい飾り方というわけではありません。好きな場所に飾っても大丈夫です。
また、片付ける時期は通常のお雛様と同じです。雛祭りが終わったら素早く片付けと良いでしょう。
いくつ飾ってもOK!
つるし雛は手作りできることから、いくつでも作ることができます。通常の雛人形のように高くないという特徴があります。
そのため、いくつ飾っても大丈夫です。一つだけ飾っても良いですし、お雛様の両脇に一つずつ飾っても良いでしょう。また、部屋のあちらこちらにたくさん飾っても問題ありません。
まとめ
つるし雛の始まりは、江戸時代の庶民から広まりました。それだけ雛人形は当時は大変高価なものだったのですね。
現在はつるし雛のキットがたくさん売られています。簡単に作ることができますから、ぜひ手作りをして飾ってみてくださいね。