最近は、抹茶を飲めるカフェが増えてきたり、初心者向けの体験茶道教室が開かれたりと茶道に親しむ機会が増えてきました。そんな茶道で抹茶と一緒にいただくものといえば、和菓子。
そこで今回は「茶道ではどんなお菓子が出されるのか?」や「お菓子をいただくときのお作法・マナー」について紹介していきます。これを読んでもらえれば、初めてお茶会に呼ばれる機会があってもお行儀よくお菓子をいただけます。
また後半では、「お取り寄せできる茶道のお菓子」についても紹介します。本格的な茶道のお菓子を楽しんでみたいという人も、ぜひ気軽に読んでもらえればと思います。
じつは茶道のお菓子って、見た目や食べかたなんかにもきちんとした意味があって、奥深いものなんですよ。
もくじ
茶道ではどんなお菓子が食べられるの?
茶道では、抹茶と一緒にいただく和菓子は欠かせないものです。いったどんなものが食べられているのでしょうか?その種類や特徴を紹介していきます。
茶道で使われるお菓子の種類
茶道で使われる和菓子には、大きく分けて次の2種類があります。
・主菓子(おもがし):あまり日持ちがしない生、半生のお菓子
・干菓子(ひがし):日持ちがする水分の少ないお菓子
かしこまった茶会では、主菓子は濃茶(こいちゃ)と呼ばれる抹茶を練ったドロリとしたお茶と一緒にいただきます。
一方で干菓子は、薄茶と呼ばれるサラリとしたお茶と一緒にいただくのが一般的です。茶道にあまり詳しくない人が思い浮かべる抹茶といえば、この薄茶ですね。初心者向けのお茶会や大勢が参加するお茶会では、薄茶が提供されます。
ただ最近では、そういった大勢が参加するお茶会でも、干菓子と一緒に主菓子も合わせて出されることが多いようです。
主菓子の種類
次は、具体的にどんなお菓子があるのか見ていきましょう。まずは“主菓子”から。
じつは主菓子のなかでも、いくつかの種類にわかれます。“上生菓子(じょうなまがし)”と“朝生菓子(あさなまがし)”、“水もの菓子”の3種類が代表的です。
●上生菓子
一つ目の“上生菓子”は、茶道ではもっとも格が高いとされている、代表的な和菓子です。具体的には次のようなものがあります。
・練り切り(ねりきり)
・きんとん
練り切りは、白あんに砂糖や米粉などのつなぎを加えて練った生の和菓子です。色合いをつけたり、形を自由に加工したりすることができます。そのため、季節の花や葉っぱ、果物など、季節感を表す形にしたものが提供されます。
それから、“薯蕷練り切り(じょうよねりきり)”と呼ばれる山芋を使った練り切りもあります。作るのに技術が必要で手間もかかりますが、上品な甘さと独特の光沢があり、和菓子の餡(あん)のなかでも上等とされています。
きんとんといえば、栗きんとんなどをイメージしますが、よく知られている栗きんとんとは見た目や作り方も違います。
茶道で食べられるきんとんは、イガ栗のような形です。色合いは華やかな季節の花を表現したものが多くあります。
栗のイガのようなものは、ザルなどで裏ごしした餡を、そぼろのようにしたもの。芯には、求肥(ぎゅうひ)と呼ばれる団子のようなものや、餡を玉状にしたものが使われます。
舌触りはとてもなめらかで、上品な口当たりが特徴です。
●朝生菓子
続いて“朝生菓子”です。これはその日のうちに食べきらないといけないような、とくに日持ちのしない和菓子です。具体的には、次のようなものがあります。
・大福
・柏餅(かしわもち)
・桜餅(さくらもち)
・饅頭(まんじゅう)
和菓子としては身近な、おなじみのものですね。
今ほど技術が発達していなかった時代、こういったお菓子は傷みやすかったそう。そのため、朝に作ったものを、午前中で売り切って、その日のうちに食べてもらうようにしていました。
そういったことから“朝生菓子”と呼ばれるようになったといわれています。
●水もの菓子
“水もの菓子”は、夏によく用いられるお菓子です。具体的には、次のようなものがあります。
・寒天
・くずもち
・ゼリーを使ったお菓子
寒天を使ったお菓子のなかには、“錦玉羹(きんぎょくかん)”と呼ばれる芸術的なお菓子もあるんですよ。きれいに透き通った寒天のなかに、練り切りや餡で作った金魚などが浮かべられていたりします。
こういったお菓子は見た目が涼しげで、のどごしもいいため、暑い季節におもてなしするのにはぴったりですね。
干菓子の種類
“干菓子”は名前のとおり水分をほとんどふくんでいない和菓子です。そのため、日持ちがします。代表的なものとしては、次のようなものがあります。
・打ち物
・飴(あめ)
・焼き物(やきもの)
打ち物とは、みじん粉(米からつくった粉)やきな粉に砂糖をまぜて、木の型に打ち込んで作るお菓子です。型によって形はさまざまで、花や鳥、果物などをかたどった打ち物もあります。
そのなかでも“落雁(らくがん)”と呼ばれるものは、お盆のお供えものなどで見かけるため、よく知られていますね。
そして、飴は砂糖や水あめを煮詰めて作られる、あの飴です。代表的なものとしては、金平糖(こんぺいとう)や有平糖(あるへいとう)などがあります。金平糖は、トゲトゲの見た目が印象的なおなじみの砂糖菓子です。
有平糖はあまり知られていませんが、金平糖と一緒にポルトガルから伝わったキャンディといわれています。最初はシンプルな丸い形でしたが、やがて江戸時代になると、さまざまな形や色に細工する技術が発達しました。
茶道でも、季節の草花や蝶、結んだリボンのような形など、見とれるように美しいものが提供されます。
焼き物は、ボーロや麩焼き煎餅(ふやきせんべい)などが代表的です。ボーロは小麦粉に卵や砂糖をまぜて焼いた丸いお菓子で、シンプルで懐かしいような味わいがあります。
麩焼き煎餅は、”お麩”からできていると思われがちですが、じつはもち米で作られています。口のなかに入れるとお麩のようにフワッと溶けるので、こう呼ばれるようになったといわれています。
味はシンプルで素朴な甘さがあって、あの千利休も好んで用いたお菓子の一つです。
茶道でお菓子をいただくときの大切なお作法(マナー)とは?
初めてお茶会などに呼ばれたときなどは、マナーにのっとってお行儀よくお菓子をいただきたいものですよね。
また、自宅でいただくときであっても、茶道のお作法にのっとって食べれば、よりお茶やお菓子の味わいが深く楽しめるものです。
ここからは、そんな「茶道でお菓子をいただくときの大切なお作法」について紹介していきます。
お菓子とお茶を交互に食べるのはNG
あまり知られていませんが、茶道では「お茶とお菓子を交互に食べるのはマナー違反」とされています。なぜなら、お茶会で出されるお菓子には「お茶を引き立てる役割」があるからです。
料理のコースに例えると、お菓子が前菜で抹茶がメインの料理となります。イタリア料理のディナーでは、甘いお菓子を先に食べきってから苦味のあるエスプレッソを飲むのが正式なマナーとされています。それと同じようなものですね。
最初に食べるお菓子の甘みが口に残っていることで、その後に飲む抹茶がより美味しく感じられるんです。
食べるタイミングとしては、亭主(もてなす側の中心の人)が「どうぞお菓子をお召し上がりください」といって、正客(お客さんの代表)が食べ始めたときが正解です。それまでは、静かに待ちましょう。
心配りに感謝する
お茶会で提供されるお菓子は、そのお茶会を素晴らしいものにしょうと、もてなす側が考えて選んだものです。季節感やお茶会のテーマなどをあらわした和菓子が選ばれます。
場合によっては、その日のために亭主がお菓子屋さんと打ち合わせをすることもあります。そこまで手間をかけてくれたことに感謝しながらいただくことが大切です。
そういった“おもてなしの心”を感じられるのが茶道の魅力でもあるのです。
お茶会では、お客がお菓子を食べ始めたときにお茶をたて始めるのが一般的。そのため、意外に食べる時間は短いものです。しかし、それでも形や風味、食感などを目いっぱい楽しみましょう。
お菓子の取り方
菓子器(お菓子を入れた器)は、上座のお客さんから順番に回ってきます。前の人から「お先に」といわれたら、手をついてお辞儀します。
自分の番になったら、次の人に「お先に」といってから手をついてお辞儀します。そして、“懐紙(かいし)”の上に右手でお菓子を取り出します。取り終わったら次の人に菓子器を送りましょう。
懐紙とは、二つ折りになった小さな和紙のことです。現代では、茶道など限られた場面でしか使いません。しかし、昔はティッシュやハンカチ、メモ用紙などの代わりとして、和服を着るときはふところに入れていたそうです。
ちなみに、2種以上ある干菓子を取るときは、奥にあるものから取りましょう。それ以外の場合は、手前と奥どっちが先などのルールはありません。
ただ、盛り方にも心配りがされているので、そういったもてなす側の思いを次の席の人にも伝えられように気をつける必要があります。そのため、できるだけ崩さないように手前から取るのが普通です。
流派によって細かい動作は異なりますが、大まかには説明したとおり。わからなくなったときは、前のお客さんをよく観察しておいて真似をしましょう。
茶道の動きに込められた意味
茶道の作法やマナーにはきちんとした意味があります。紹介してきたお菓子のいただき方についても同じです。
例えば、お菓子を取るときも、挨拶をするときもお辞儀をするのは、「相手を信頼しているあかし」とされています。
茶道の作法は、武士が活躍した時代に完成されていきました。当時、相手から目線を外して頭を下げるということは命の危険があることでした。そのあいだに攻撃されるかもしれないからです。
しかし、それでもお辞儀をするということは、相手に対して敵意もなくて信頼していますよという意味があるのです。
また、茶道の動きはゆっくりとしていたり、独特の間があったりします。これには、「和敬(わけい)」といわれる茶道の基本があらわれています。和敬とは、「心を穏やかにして、謙虚さを忘れず、相手を敬う気持ちを持つこと」です。
お菓子をいただくときも、この気持ちを忘れずにいただきたいものですね。
お取り寄せできる茶道のお菓子
ここまで茶道で食べられている和菓子や、食べ方について解説してきましたが、実際に食べてみたくなった人もいるのではないでしょうか?
そこで最後に「お取り寄せできる茶道のお菓子」を紹介して終わりたいと思います。「お茶に合う本格的な和菓子を食べたい」という人や、「自宅で抹茶と一緒に茶道の気分を楽しんでみたい」という気軽な気持ちでも楽しんでいただけます。
お茶をたしなむ人のあいだで有名なものに絞って、おすすめを紹介していきますね。
日本三大銘菓のひとつ 金沢・森八の“長生殿(ちょうせいでん)”
こちらの落雁(らくがん)は日本三大銘菓の一つとして数えられる和菓子です。和三盆糖と地元北陸産のもち米から作られていて、300年以上のあいだ作り方も変わっていないそう。
口にふくむとサラリと溶けて、和三盆糖の上品な甘みがじんわりと広がります。お茶の席の干菓子として、抹茶はもちろん緑茶にも合います。
金沢の老舗・落雁諸江屋の“加賀宝生(かがほうしょう)”
こちらも落雁なのですが、先ほど紹介したシンプルなものとは一味違っています。生落雁(なまらくがん)といわれるしっとりとした落雁のあいだに、羊かんをはさんだものです。
白と黒のコントラストが美しく、薄い塩味の落雁が羊かんの甘さを引き立てます。
こちらのお菓子も金沢の老舗のものですが、金沢では古くから文化や芸術が進んでおり、茶道の文化が発達していました。“加賀宝生”もまた昔から茶人のあいだで愛されてきた歴史のあるお菓子です。
菓子どころ松江の銘菓 三英堂の“若草(わかくさ)”
京都や金沢とならんで老舗の和菓子屋さんが多い場所といえば、島根県松江。その松江で銘菓とされているのが、この若草です。
もち米を練り上げて作った求肥に、薄緑の寒梅粉(米粉のようなもの)を乗せて、名前どおり若草を表現しています。食感はやわらかくて、甘みは上品です。春から夏にかけていただけば、あざやかな緑が季節を感じさせてくれます。
京都の老舗・鶴屋吉信の“紡ぎ詩(つむぎうた)”
京都には茶道と縁のある老舗のお菓子屋さんがいくつかあります。そのなかの一つ、鶴屋吉信(つるやよしのぶ)という和菓子屋さんでおすすめなのが“紡ぎ詩(つむぎうた)”というまんじゅうです。
まず、皮がしっとりしていて、この手のまんじゅうにありがちなパサパサ感がありません。中のこしあんは甘さ控えめでお茶によく合います。また、きざんだ栗がアクセントになって飽きさせない味わいです。
ひとくちサイズできれいに食べられますし、季節を選ばないことから、お土産としても喜ばれます。
まとめ
茶道で食べられているお菓子は、大きく分けて2種類があります。一つは主菓子(おもがし)と呼ばれる生・半生のお菓子。もう一つは、干菓子(ひがし)と呼ばれる日持ちがする水分の少ないお菓子です。
主菓子は、“練り切り”という餡を練ったお菓子や“きんとん”と呼ばれるイガ栗のような形の口当たりのソフトなお菓子が代表的です。ドロリとした濃い抹茶と一緒にいただきます。
干菓子は、“落雁(らくがん)”と呼ばれる、米から作った粉に砂糖をまぜて型に打ち込んだお菓子が代表的です。抹茶といわれて思い浮かべるサラリとした抹茶と一緒にいただくのが一般的。
ただ、最近では干菓子と主菓子が合わせて出されることも多いようです。
こういったお菓子をいただくときは、お作法を守ることも大切です。例えば、「お菓子はお茶を飲む前に食べきること」や「おもてなしの心配りに感謝すること」、「お菓子をとるときは、お辞儀をしてから取り出すこと」などは大切なマナーとされています。
そういったお作法にもきちんとした意味があって、「和敬(わけい)」という茶道の基本があらわれています。和敬とは、「心を穏やかにして、謙虚さを忘れず、相手を敬う気持ちを持つこと」です。お菓子の食べ方一つとっても奥深いのが茶道の世界なのですね。